ワインのラベルには、必ずと言っていいほど、
酸化防止剤として、「亜硫酸塩」の表記があります。
↑ これはたまたま手元にあった、フランスのワインボトルの裏エチケット。
がっつり「酸化防止剤(亜硫酸塩)含有」と表記されています。
この亜硫酸の添加に関しては、ワイン好きの間でも賛否が分かれるところ。
まずは、この化学物質について、事実を見ていきます。
①亜硫酸とは?
二酸化硫黄(にさんかいおう)を水に溶かしたものが亜硫酸(H2SO2)。
亜硫酸を中和すると(水と塩に分けると)亜硫酸塩になるので、
「二酸化硫黄=亜硫酸=亜硫酸塩」と考えて問題ないです。
日本人にとって、硫黄と言えば、温泉の匂いがなじみ深い。
かなりくさい物質だが、ワイン造りでは古くはローマの時代から、
木製の樽などの殺菌を目的に使用されてきたものです。
古典的な殺菌剤と言えるでしょうね。
②亜硫酸の働き
ひとつは、殺菌作用。
少量でも強い殺菌作用を持ち、同時にワインの酵母には影響が小さい。
いわゆる「雑菌」だけを死滅させる効果が高い。
そしてもうひとつは、抗酸化作用。
酸化を抑えて、ワインの味を保つ働きを持っている。
(厳密に言えば、酸化によって生まれるマイナスの香り物質、
たとえばアセトアルデヒドなどと結合し、不活性化させる)
最後に、発酵を止める働き。
酵母に働きかけて、ワインの発酵を遅らせることができる。
これにより、人間のコントロール下でワインの発酵が進む。
たとえば、樽が少ない場合、亜硫酸を添加することで、
一度に収穫した葡萄を、何段階にも分けて発酵させることが可能。
(たとえば100あるワインのうち、20を樽を使って発酵させ、
残り80を亜硫酸添加によって殺菌、発酵停止させる。
その後、最初のワインが完成し、亜硫酸の効果が薄れたら
次の20を発酵させ、残り60に亜硫酸添加…とやれば、
ひとつの樽で通常の5倍のワインを造ることも可能なわけだ)
③亜硫酸の人体への影響
ワイン醸造家にとっては、上記のように魔法の薬のような亜硫酸。
消費者にとってはどうなのか?
もちろん、人体への影響が皆無ということはありえない。
「硫黄は自然物」という意見も見られるが、
それなら「放射能」だって「ダイオキシン」だって自然に存在する。
自然に存在するからと言って、無害という根拠にはならない。
加えていえば(社会の講師としての観点から言えば)、
「二酸化硫黄」と言えば、日本の四大公害病のひとつ、
「四日市ぜんそく」の原因物質として有名だ。
だから、喘息もちの人は、旧来の亜硫酸添加のワインは危険と言える。
また、世界保健機関(WHO)は動物実験により、
1日あたりの亜硫酸摂取量基準は体重1kgあたり、0.7mgとしている。
体重が僕と同じ65kgだとすると、45.5mgになる。
各国のワインにおける亜硫酸添加の上限は、
フランス…赤ワインで160mg(=160ppm)
日本…350mg(=350ppm)
といったところ。
さて、これらの事実をもとにすると…
「伝統的に使われてきて、
ワインの味わいを保存する能力は極めて高いが、
人体への悪影響は認めざるを得ない物質」
というのが亜硫酸に対する定義と言えると思う。
もちろん、人体に悪いということでいえば、
鶏ガラスープの素だって、コンビニ弁当だって悪いが、
それらすべてを食べない生活というのもキツイ…
というのが現状ですよね?
最後に、この亜硫酸に対する専門家スタンスを紹介したい。
僕が自然派を好むせいで、基本的にウチにある書籍には、
亜硫酸に対するマイナスの言説が多い。
なので、賛否両論+中立意見をひとつずつ紹介しようと思います。
①亜硫酸反対意見「自然なワインがおいしい理由」より
(亜硫酸を使わない)ヴィニュロンたちは、
酸化、劣化と紙一重の危険な綱渡りをしながら、
科学的介入を限界まで排して
葡萄本来の個性を表現しようとしており、
その振り子がポジティヴな方に振れたとき、
えもいわれぬ香りと味わいがもたらされる。
(中略)
(亜硫酸無添加ワインは)扱いが難しいのも事実で、
特にきちんとした温度管理をせずに海を越えてきたものは、
造り手の意図とは全く別物に変貌を遂げていることもある。
②亜硫酸賛成意見「神の雫34巻、葉山考太郎氏のコラム」より
私に言わせれば、「ワインに含まれる最大の毒はアルコール」だ。
(中略)
数年前、亜硫酸無添加のワインに、少しずつ亜硫酸塩を添加して、
味わいの変化を実験したことがあった。
無添加だと、田舎直送の娘さんのように野暮ったい。
添加量が増えると洗練度が上がり、
60ppmでいつもの妖しい美女、
150ppmを超えると、ステンレス製の人造人間美女となった。
必ずしも自然派ワイン=美味いワインではない。
名手が作るワインは、自然派であろうと
美容整形ワインであろうと美味いのだ。
③中立意見~「ワインの科学」より~
亜硫酸無添加ワインにとっては、
貯蔵の問題が最大のネックになっている。
出荷から販売まで、ワインを常に14度以下に保たねばならない。
消費者が生産者から直接ワインを買って、
それをすぐに温度管理されたセラーに入れるなら話は別だが、
現代の小売事情を考えると、厳密な温度管理は期待できそうにない。
この理由一つをとっても、
亜硫酸無添加ワインが広まる可能性は低いだろう。
(中略)
(故ジョージ・レスナー氏は)亜硫酸無添加ワインの生産者は、
概してワイン界の役に立っているというのだ。
彼らが無添加という極端な姿勢を打ち出すことで、
亜硫酸の使用を抑えようという傾向が全体に生まれ、
使用量が明らかに減少したからだ。
(中略)
亜硫酸添加を低く抑えようという気運は生まれた。
後はこの魔法の分子の作用について理解を深め、
ピーター・ゴッデン氏が説くようにもっと賢く使えるようになれば、
あらゆる人にとってプラスとなるだろう。
上記3つの意見を読んで、自分なりの意見を持つのが重要だろう。
僕個人としては、亜硫酸の添加が無い方が好きだ。
そのために、生産者のもとを訪れ、ワインを購入し、
それを自宅で保管する労もいとわない。
感動できるものに出会うためには、
それなりの工夫と努力が必要となる。
僕が農業生産を始めたときも、
無農薬で美味しいものを食べたいと望む消費者には、
それなりのコストを払ってもらいたいと思う。
(殺菌剤や殺虫剤を使わない害虫や疫病への対応は、
本当に労力がかかるんですよ…)
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