ワインの知識~酒について~

今日も知識系。
酒類全般についてです。

これも旧ブログより引っ越してきました。
最近、旧ブログからのコピー記事が多いのは、
純粋に時間と体力が残ってないからです笑

暑さに加えて夜の塾のバイトが夏期講習に入り、
目の回るような忙しさになってきました。

というわけで、数年前に読んだ本のまとめ。

この手の本は小難しいことが多いのですが、
これは読み物としても楽しめるくらい、非常に良い本だった。

副題も良いですよね。
「酵母の進化から二日酔いまで」。
そそられる笑

前書きから引用。

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ウィリアム・フォークナーは
「文明は蒸留と共に始まった」と言ったらしいが、
僕はそれをもっと押し広げたい。
蒸留酒だけでなく、ワイン・ビール、ミード、日本酒などすべての酒へと。
酒はグラスに注がれた文明なのだ。

(中略)

酵母から二日酔いまでの旅路は、一万年にも及ぶ壮大な物語である。
儀式や気晴らしの中心的な存在を完璧なものにするため、人間は文明を築く間
執拗なまでの仕事をずっと続けていった。

酵母の起こす奇跡は、あまりにすごく、容易には信じられない。
酵母は真菌の一種で、
糖を僕たちが飲むアルコールに転換する自然が生み出したナノマシンだ。

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科学の観点から、酒とは何なのかというのを読み解こうとするのが本書。
重要な点を要約という形で残しておく。

①アルコール発酵の歴史
人類と酒の歴史は深く、
前書きにも書かれている通り、文明の起こりとほぼ同時に、
アルコール発酵を利用して酒類が作られている。

特にワインは果実の中に発酵に必要なものがすべて含まれているので、
保存するための容器(土器で充分だが)さえあれば、
破砕した果実を入れておくだけでアルコール発酵が自然と起こる。

だから、先史より人類はアルコールを楽しんでいたと考えられる。
しかし、「なぜアルコール発酵が起こるのか」という謎に関しては、
ようやく今から150年ほど前に(つまり19世紀半ば)になって初めて、
そのメカニズムが解明されたばかりなのだ。

つまり、それ以前において、
ワインをはじめとする酒類は奇跡の飲み物であり、
洋の東西を問わず、宗教と強く結びついてきた。
(キリスト教におけるワインしかり、
 「君の名は」にも出てきた「口かみ酒」しかり)

では、アルコール発酵が解明されるまで、どのような変遷があったのか。
本書の内容を時系列に年表形式でまとめてみた。

②酵母研究の歴史
・紀元前 アリストテレスの仮説
 アリストテレスはアルコール発酵の原因を、
 「生き物を目的に向かって駆り立てる生命力」によると考えた。
 つまり、すべての物質には「そうありたい」という力が内包されており、
 葡萄はアルコールに「なりたがっている」と考えられた。
 宗教色を排しているところは評価できるが、科学的とは言えない感じ。

・1516年 ドイツでビール純粋令
 そこから時代が飛んで16世紀、発酵のメカニズムにかすっているのが、
 ドイツで出された「ビール純粋令」だろう。
 麦芽、ホップと水以外で、ビールを作ってはならないという法令が誕生。
 つまり、これらの物質の「何か」がアルコール発酵を生んでいると、
 経験的には推定されていたことがうかがえる。
 もちろん、それが「何なのか」は誰も分かっていなかったはず。

・17世紀 顕微鏡の発明と、酵母のスケッチ
 顕微鏡を発明したレーウェンフックがビール酵母をスケッチする。
 もしかすると、アルコール発酵に関わっているのが、
 微細なこの物質(もしくは生命体)では?と考えられたが、
 当時の学界からは完全に無視された。

・1789年 質量保存の法則
 酸素や水素を発見したラボアジエが、
 発酵の前後で物質の質量は変わらないことを発見。
 つまり、全く別のものが生み出されているわけではなく、
 もとあった物質が変化して、アルコールに変わっていることが証明。

・1837年 発酵の要因は「微生物」か「化学変化」か?
 生物学者シュワンが発酵は微生物によるものだと提唱。
 化学者たちの猛反対を受ける。醸造とは化学変化であるとの認識。
 まぁ、結論から言えば、両方とも半分正解で半分ハズレだったわけですが。

・1857年 パスツールによる証明
 パスツールが微生物が発酵を行っていることの証明に成功。
 微生物が、環境から何かを取り入れ、何か別の物質を排出すると仮説。
 これが「代謝」という考えのスタートになったという点で画期的。
 我々人類もそうだが、食物として何かを取り入れ、
 エネルギーに変換して(化学的に変化させて)、
 そして副産物を排泄している。
 同様のことが、微生物でも行われ、その結果として、
 アルコール発酵が起こっていることが証明された。

・1889年 酵母を長期保存する手法の確立
 ブフナー兄弟によって酵母の長期保存に成功。
 それまでも、たとえばパン屋やワイナリーでは、
 棲みつき酵母(微生物)によって、味わいが決まることは、
 経験的に行われていたが(つまり酵母の家畜化には成功していたが)
 科学的にその手法が確立され、優良な酵母を手に入れて、
 優良なパンやワインを造ることが可能になった。

近年のDNA研究によると、1万1900年前に原種から酒の酵母が生まれる。
その後、3800年前に日本酒の酵母が、
2700年前にはワイン用の酵母が枝分かれしたことまで分かっている。
真核細胞の中で最初にゲノムが解読されたのが酵母だったことからも、
発酵による物質の変化を担っているのが、
小さな生き物だと理解することで科学革命が花開いたと言えそうだ。

③酵母による発酵
では、その微生物=酵母は、どのように発酵を行うのか。

酵母は糖を食べて、エネルギーを生み出し、
そして副産物としてエタノール(アルコールですね)を排出する。

酵母が食べられるのは、最も単純な構造をした「単糖」で、
ブドウ糖や果糖がその代表。
これらはレゴ・ブロックのように組み合わさったり、
バラバラになったりする。

ブドウ糖と果糖が組み合わせるとショ糖(砂糖)になる。
酵母はこの3つを始め、7種ほどは食べることができる。
さらにほかの分子と糖が結びつくと、
DNAの骨組みになったり、セルロースになったりと、
糖は驚くほど形と働きを変えて、生物内で活躍する。

ここまでは、人間が食事をしてエネルギーを得るのと同じだが、
エタノール(アルコール)を排出することにもメリットがある。

エタノールには殺菌力があり、酵母と競合する真菌や細菌を殺す。
(ただし、アルコール度が高くなりすぎると、
 排出した酵母自身も死滅する)

さらによく燃焼するため、エネルギーとしても使える。
(お酒はエネルギーになりやすいが、消費もしやすいというこになるな)
酵母は、代謝の一部を逆転することもできる。
エネルギーが少なくなれば、エタノールも食べることができる。
(これはすごいな。自分が出した排気ガスで走る自動車みたいなもんだ)

生物の適応戦略というのは、本当にすごい。
殺菌力(防衛)か、エネルギー効率か、
どちらが適応に有利だったのかは分からないが、
この代謝を手に入れた酵母が繁栄していくというわけですね。

そしてさらに人間に取り入って、
酒類を生み出す微生物として重宝され、繁栄しているわけだ。

④糖を生み出すための菌の登場
果実を原料とする酒なら、果糖を酵母が使って発酵する。
ただし、麦(ビール)や米(日本酒)には、糖が無い。
酵母はデンプンを分解して単糖類にすることができない。

だから、デンプンを糖化させるために、
古代では唾液を使っていた(つまり人間が米を噛んでいた)。

しかしそのうち、デンプンを糖化する微生物が発見され、
利用されるようになる(そりゃあ、人が噛んだもので酒ができてもねぇ…笑)。

例えば麹(こうじ)菌。
スーパーでも見かけるので、日本では割と有名です。
しかしコイツ、実は真菌類の一種で、同属の真菌には有害なものが多く、
重篤なアレルギー反応や肺炎、発がん性のものもある。

だから細菌学者はビビるらしいが、麹菌はネコより大人しい。
デンプンを糖化し、日本酒やしょうゆ、みそ、酢の醸造・発酵に欠かせない。

中国では紀元前300年に、日本では725年に記録上に登場。
今から1000年前に麹を販売する商売が始まる。

⑤酵母が生み出す「香り」
さて、ここからはワインに特化して。
ワインはもちろんブドウから作られるわけだが、
ブドウという果実をアルコールに変えるのは、極めて簡単だ。

ブドウの実は専門的には「中果皮」と呼ばれ、
ほとんどが果肉でできている。
そしてこの果肉のほとんどを占めるのがブドウ糖と果糖。
(つまり、酵母のエサでできているような果物ですね)
さらに酒石酸とリンゴ酸を含み、このミックスは酵母の好物と来ている。

さらにワインを魅力的にしている香り。
この正体はテルペンという揮発性の芳香性化合物だ。
こういった香りのする化合物は多くの植物で作られるが、
ほぼすべての植物が、それを放出してしまう。

ペパーミントは葉の表面にある毛状突起から香りを放出するし、
柑橘類は果皮の「オイルポケット」に香りの油分を集めている。
しかし葡萄ではこの香りの分子は全て果肉に浮かんでいて、
最終的にはワインに溶け込む。

また、ブドウの果汁は全て透明だが、
皮にはアントシアニンという色素を豊富に含む。
(これが赤ワインの美しい色合いを作っている)
この色素にはタンニンという渋味のある分子とフェノール分子を持つ。
タンニンが多いほど、長期保存が可能になる。

さらに、発酵し、アルコール飲料になる過程で生まれる香りもある。
たとえばソーヴィニョン・ブランに特徴的な、
パッションフルーツやトロピカルフルーツの香り。
この要因はチオール化合物だが、
これは果汁の中ではシステインというアミノ酸と結合し、不揮発性である。
揮発しないので、においはしない。
酵母が果汁を代謝する中で、この2つを分離するので、
ワインになったときに初めて、香りを発するようになるのだ。

ゲヴェルツトラミネールでも同じことが起こる。
薔薇やスミレの香りのするテルペンにも起こる。
果汁の中では縛り付けられている不揮発性の物質が、
酵母のおかげで自由になるのだ。

⑥酵母が生み出す「泡」
発酵では二酸化炭素も作られる。
つまり泡だ。泡は全てを変える。
パンでは気泡が空洞を造り、ふんわり美味しくなる。

また、二酸化たん度にはそれ自体に風味があって、
これが飲み物全体の味に影響を与える。
分圧が高いと(二酸化炭素が多いと)痛みを感じる、
二酸化炭素は瓶の中で加圧され、ふたやコルクがその圧力を保っている。
二酸化炭素は圧が高いと液に溶け、
泡として見えることはないが、
栓を抜き、圧力が下がると液から出てくる。

シャンパーニュやプロセッコなどのスパークリングワインでは、
小さな泡粒が脂肪酸や芳香性の化合物を
液体の中から表面まで引き出してくれる。

詳しく見ると、まず泡がワインの液面にぶつかり、
弾けてそのてっぺんに穴が開く。
穴の縁はおよそ時速35kmの速さで広がり、
高圧の輪となってある欲の低い泡の底部で衝突とする。
すると円錐形のジェットがグラスの上部へ噴射され、
これによってワインの香りが豊かになるのだ。

⑥ワイン用葡萄の科学
最後に、ブドウという植物について。
ブドウはほかの植物が利用できない土でも育つし、
藪や木立でも茂り、刈りこまれても枯死しない。

ヨーロッパは元来、やせ地だったわけで、
岩だらけでも育つジャガイモとかブドウとか、
そういう植物が重宝されたということがありそうだ。

特にワインにおいては、
「ヴィティス・ヴィニフェラ」というたった1種のブドウ種が、
多くの産地で多数派を占める。

イアン・ホーンセイという学者によると、
1種が独占した背景には、地形が重要な要素としてあるとのこと。
南北アメリカ大陸や東アジアの山脈は南北に走るが、
ヨーロッパや西アジアでは東西に走る。

だから氷河期に氷河が南に向かって伸びたとき、
アメリカや中国のブドウは南へと生息地を移すことができた。
しかしユーラシアのブドウは8000年前に、
わずかに残された「レフュージア」という温暖な微小気候を見つけ、
そこで氷河が溶けるまで隠れていなければならなくなった。
そしてヴィティス・ヴィニフェラだけが生き残った。

黒海とカスピ海をつなぐ南カフカス高地の、
現代でいうところのジョージア(グルジア)という国の
どこかの高地にその起源をもち、
のちにメソポタミア地域、エジプトへと移動していったと思われる。

それが現代のヨーロッパを始め、多くの生産地に広がっている。
ブドウにも歴史あり。

職業病か、こういうことを調べだすと止まらなくなるな(笑)
超・長文、最後までお付き合いいただいた方、
(もしいるなら)ありがとうございます!

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