2018年のワインアカデミーの講義より。
第1講義はフランス、ボルドー大学のジル・ド・ルベル教授。通訳は農楽蔵の佐々木佳津子さん。
タイトルは「ワイン醸造における亜硫酸の重要性」。
内容を要約しておきます。
・講師紹介ボルドー大学は醸造家(エノログ)のための過程が有名だが、研究者の育成過程もある。教授は研究者のコースを担当し、ワインの香りの研究を行っている。
研究の中心は「アルコール発酵中」「MLF発酵中」「熟成中」に、
ワインの香りがどう変化していくかということ。
・亜硫酸に対する流れ
フランスでも日本でも、消費者が求めるものは亜硫酸が少ないもの。
日本ワインも亜硫酸の不使用のワインが増えてきているし、
使用量も減ってきているという印象がある。
しかし一方で、全体量の4~5%のワインには、
亜硫酸を使用しなかった(あるいは極度に減らした)ことによる、
酸化のニュアンスが感じられた。
生産者と話していても、亜硫酸をどのくらい使用するのがベストか、
という質問を受けることが一番多い。
・亜硫酸とは何か
①ワイン醸造の補助剤である。
(1) 抗菌作用がある(菌類の繁殖を抑制する)
(2) 抗酸化作用がある(酸化によるワインの劣化を抑制する)
(3) 溶媒効果がある(色素が抽出されやすい)
(4) 抗酸化酵素効果(酸化を促す酵素を抑制する)
②食品加工に使用される。
③もともとは天然の化合物である。
→硫黄や硫黄化合物は地球上に様々な形で存在する。
(日本人にとっては温泉がもっともなじみがあるのでは?)
それを純粋な形で人工的に取り出したものが亜硫酸。
(*海の塩は天然物だが、食塩は人工物なのと同じですね)
これらのように、ひとつの添加物で多くの効果があり、
歴史的に最も長く使用され、
ワインのみならず広範囲に使用されていることから、
現代でも多くの場面で酸化防止剤として使用されている。
多くの研究がおこなわれているが、
いまだに代替物質は開発されていない。
・亜硫酸の毒性
ただし、万能ではなく、健康被害が出ているのも事実。
急性毒性:アメリカでは1年間で6事例ほど報告されている。
慢性毒性:マウス実験では、
(1) チアシン欠乏
(2) 胃の細胞に病的変異
(3) 成長抑制
などが報告されている。
問題になっているのは慢性毒性の方で、
DJA(1人が1日に摂取できる量)は0.7mg/kgとされている。
体重が60kgなら、42mgまでということになる。
ただし、ぜんそく患者では
これ以外でもアレルギー反応がでることがある。
また、証明されていないが、
頭痛などが起こるという経験を持つ人も多い。
・ワイン生産者としてどう向き合っていくべきか
消費者は「亜硫酸を減らしてほしい」という希望と同時に、
「美味しいワインを飲みたい」という希望を持っている。
この相反する2つの要望に応える努力をしていかないといけない。
ただし、亜硫酸を使用しない(もしくは減らす)ということは、
ワイン醸造をする上では非常に難しい技術である。
ポイントとしては、
①健全な果実のみを収穫する(厳しい選果を行う)
②ラッカーゼの活性を抑制する
③すべての醸造設備、収穫箱を衛生的に保つ
④酸素と触れる時間をコントロールする
⑤その年のブドウの状態に応じて、適度な亜硫酸量を熟考する
現在、単純に亜硫酸を減らすだけの醸造を行い、
結果として酢酸エチルやフェノール類といった、
酸化のニュアンスを感じるワインも多くなった。
これでは「美味しいワイン」という要望に応えているとは言えない。
また、亜硫酸を使用しない場合、安定性が低くなるので、
経年変化による酸化も進みやすい。
よく自然なワインというが、
自然状態では時間と共にワインは酢に向かっていく。
それを人間の都合でワインの状態でとどめておくわけだから、
決して自然な行為とは言えないということも認識しておくべきである。
うーん。
僕も亜硫酸をあまり使用しない造りが好きだけど、
そこには多くの苦労や工夫があるのだな。
勉強になりました!
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