ワインの知識~新興産地の抱える課題と展望~

旧ブログより引っ越し。

ワインヘリテージでの鹿取さんの講演のまとめです。
自分なりのノートに編集してあります。
(講演をベースに、自分なりの意見なども足しています)
【*一部加筆修正しました 2017/04/07/21:00】

①日本ワインの最新事情
まずは日本におけるワインの現状から。
世界的にはビールを中心に酒類の消費量が増加し、
その中においてワインは減少しているが、
日本は逆に酒類全体は消費が下がっているにもかかわらず、
ワインを含む果実酒は伸びが顕著になっている。

それと時を同じくして、日本でのワイナリー数も増えている。
先日、日本政府が初めて「日本の原料を使って日本で作られたワイン」、
つまり「日本ワイン」の生産量を調査、公表した。

この発表によると、生産量はボトルで2500万本。
日本で販売されるワインの100本に3本が日本ワインということになる。
日本でワイン造りが有名な都道府県は、第1にまず山梨県。
日本固有品種のヨーロッパ系「甲州」、
日本独自の交配種「マスカット・ベーリーA」を生み出している。
第2群が新興の長野県、北海道。
温暖化が進む中、急速に産地としての注目を浴びている。
そして東北の山形県。
苗木栽培の中心地として存在感を発揮している。

しかし近年、それ以外の都道府県でもワイナリーが生まれている。
背景としては、ブドウが「付加価値農産物」であると
みなされ始めたことが影響しているとも考えられる。

地域振興として誘致していたり、ワイナリー観光客への期待もある。
また休耕地の再生としての役割も果たしている。
結果、多くの地域で地域活性化の旗頭にワインを掲げるようになり、
補助金を獲得している例も増えてきていると言える。
(*もちろん、どの地域でも「ワイン産業=地域活性化の旗頭」と
  考えるのはやや危険ですが)

鹿取さんの調査によると、最新は約255軒。
一方、国税庁での調査結果では280軒となっている。
この違いは「ワイナリー」の定義が確立していないため。
いずれにせよ、2000年以降で100件以上が新設していることは確実。

②日本ワインの抱える課題
・歴史が無い
フランスなどと違い、どの場所でどの品種が最適なのか、
まだまだ積み上げがない。
逆に言えば、多様性が発揮できるとも言える。
ヨーロッパでは禁止されているラブラスカ(北米系)や、
各地に自生する山葡萄も使用可能なのが日本。
日本は食生活もまた多様であるがゆえに、
ワインの多様性はプラスに働くとも考えられる。

・産地形成ができていない
産地とは、小さなエリアに葡萄畑、醸造所が集積する場。
そこにワインに関する研究所なども必要。
まだまだ点在しているというのが現状。
横の連携ができてくれば、まだまだ質が上昇する。

・苗木不足
日本全体で決定的に苗木が不足している。
国内で苗木を扱っているのが15社。
うち8社が山形に集中し、全体の80%をカバーしている。
そのうち、品種をさらに細分化した
クローンナンバーを指定できるのは1社のみ。
独占状態となっている。

また、イタリア系品種はウイルスが発見され、
検査義務化で輸出忌避の傾向にある。
これらの要因がからみ、品種のバラエティに乏しい。

また接ぎ木の技術研究不足も顕著になりつつある。
ウイルスに羅漢したものや、
需給バランスの崩壊で量優先→質低下、
情報共有が不足などなど。

こうした状況に着目して、東京大学に植物医科学研究所ができ、
苗木の認証制度や、植物医師制度がスタートする。
長野では農家への台木供給に取り組み始めるし、
北海道でも苗木生産者育成がスタートする。

自らにも関わりがあることなので、このあたりの話興味深かった。

・産学連携の遅れ
山梨には分析センターがあるが、まだまだ不十分。
特に気象データはアメダスに依存しており、
葡萄畑ではなく、観測地のデータを使用している。

海外のようにウェザーステーションの設置も進んでいるが、
それによる観測機器バブルともいうべき状況で、
各社が様々な機器をリリースし始めた。
そうなってくると、フォーマットの統一が問題になる。

また、日本のような多湿な気候では必須の、
病害虫研究が不足しており、
各葡萄畑が各個で対応しているのが現状。
海外では「気温、降水量、リーフウェットネス(葉表面の湿度)」
のみを測る簡易測定器もあり、
数多く、キャノピー(葡萄樹の列)の中にも設置している。

また、近いエリアでの病害虫の発生情報を、
リアルタイムで共有することができるだけでも、
葡萄栽培の質が上昇すると考えられる。

③アメリカ・バージニア州に学ぶ
日本が参考にできる先進産地として、
気候が似ているアメリカのバージニア州が注目されている。

かつて酪農、リンゴ、タバコの産地だったバージニアは、
低迷を脱するため、ワイン用葡萄の栽培に力を入れる。
1985年にわずか30軒しかなかったワイナリーは、
現在、260軒へと急速に成長している。

バージニアでは、まず州法を変え、酒税を財源にワイン振興施策を取る。
バージニア工科大学が研究と普及に責任を持つ形を取り、
大規模から小規模まで代表者11名で構成された、
「ワインボード」が年に2度、研究者の発表をチェックする。

ここでの成果が認められないと、次期予算が削られるので、
研究者は現場が必要としている研究を行うしかなくなる。
日本の「研究者が調べたいものを調べる」というスタンスとは、
根本的に違っていることも特徴。

生産者同士の連携、産学連携など、
参考にできることが多いと考えられる。

この問題提起に対して、この後、
北海道を中心とする日本のワイン生産者、チーズ生産者をゲストに、
パネルディスカッションも行われました。
その内容はまた、次の投稿にて。

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