ブログ引っ越し記事、昨日の続き。
2017年ワインヘリテージのパネルディスカッション。
僕が内容を要約したものです。
話の筋が見えやすいように、
順序を入れ替えたり、省いたりした箇所もあります。
最初に、パネラーの紹介。
①吉田全作さん(岡山県 吉田牧場)
北海道大学出身。62歳。脱サラし、1984年から岡山に牧場を創業。
ハードタイプのチーズを中心に、地下の工房で作っている。
息子が後継者になり、原点であるモンゴル、ブータンに行かせている。
ドラマ「北の国から」そのままの生活をしている。
チーズを作りたいのではなく、牛がいるからチーズを作る。
②山田圭介さん(北海道七飯 山田農場)
愛知県出身。共働学舎から独立、七飯に牧場を創業。
高校生の時にチーズが好きになったことがきっかけ。
牛ではなくヤギの乳で原点的なチーズ作りをしている。
無殺菌乳で、その土地の乳酸菌でチーズを作る。
ヤギを選んだのも、農場の植生にあった動物だから。
牧草のた種を播いていないので、
自然に生えてくる野芝を食べるヤギを選んでいる。
愛知の実家で山羊を飼っていたということもある。
③伊勢昇平さん(北海道江丹別 伊勢ファーム)
「江丹別の青いチーズ」を作る。共働学舎で1年勉強。
「その土地でしか作れないチーズ」に惹かれた。
もし土地をチーズで表現できたら、
自分の住む限界集落も活性化できるのではと考えた。
フランスのオーベルニュ地方でも学んだ。
夏暑くて冬寒い気候や、植生が似ていたから。
④佐々木賢さん(北海道函館 農楽蔵)
北海道室蘭出身。2011年に新規就農し。
函館にワイナリー、隣の北斗市に畑を持つ。
シャルドネという葡萄品種に興味があり、
自分の好きなシャルドネを作れる場所を探した。
栃木県のココファームで研修もしていた。
フランスも含め10年修業して開業。6年目。
⑤ブルース・ガッドラヴさん(北海道栗沢 10Rワイナリー)
アメリカ出身。大学でワインと出会い、
美味しく、賑やかになるので惹かれた。
大学出てワインショップで働いたが、モノづくりが好きなので、
数年で造り手の方向に。カリフォルニアでワインの大学にも通い、
技術指導のコンサルタントもした。
その時の縁で日本の栃木県のココファームで醸造担当に。
若手が育ってきたので、北海道の原料に惹かれて移住。
-新しい産地形成を考えるうえで、
まず実際に現場の造り手の抱える問題とは何でしょう?
・佐々木賢さん
葡萄の収量が少ないこと。
周りにヨーロッパ系品種の葡萄を育てている農家が無く、
データ不足でのスタートになった。
想像できると思うが、入れた堆肥を抜くことはできないので、
まずほとんど堆肥を入れないところからスタートした。
収量が少ないということは、そのまま収入が少ないことにつながる。
これから入ってきたい人のモデルとなったとき、
収入がないと自信をもって勧めることができない。
-収量の少なさは北海道の共通問題と言えそう。
チーズではどうですか?
・伊勢さん
うちは生産量年間10トンで決まっている。
生産量を増やすというより、同じ量で付加価値を付けている。
酒粕を使用したりとか。
経営を楽にする工夫は必要だと思う。
-ワインだと、買い葡萄で作るということも可能ですが?
・佐々木さん
買い葡萄は取り入れている。
ただし、「自分たちのやりたいことをやる」という、
自らの哲学のもとでやれることだけをやっている。
・ブルースさん
買い葡萄は増やしたい。
良い農家との連携はお互いにとって良い刺激になる。
契約農家にスポットライトを当てることができるチャンス。
ただし、自分の考えと離れると興味がない。
面白いと思える葡萄品種であることや、
収量と質のバランスにおいて、質を重視するタイプであること。
ただ、原料不足が現状。横取りはしたくないなぁと。
今は北海道の葡萄であることも条件。
北海道の可能性を探りたいから。
ココファームでは日本中から葡萄を集めて「浅く広く」、
今は「狭い範囲で深く」探ってみたい。
-自社畑の葡萄でワインを造る「ドメーヌ」という言葉、
日本では定義も揺れているようだが?
・ブルースさん
アメリカでは「エステート・ボトル」と呼ばれる。
同じ地区で葡萄栽培、醸造をしていることが条件。
買い葡萄の場合、買う相手先とは長期契約で、
ワイナリー側に指導の権利がある場合を指す。
・伊勢さん
たとえばチーズでも、チーズの名前は土地の名前が多い。
カマンベールやゴルゴンゾーラという名前を、
安易に使って日本でチーズを作るのは違うかと。
ワインにおいても、「ドメーヌ」などの言葉を定義せず使うと、
ワインの持ってる面白みを伝えきれないのでは。
-行政との連携、生産者同士の連携の壁は?
・ブルースさん
アメリカでは小規模生産者も大企業も、対等に話し合う。
「デモクラシーのある場」はアメリカでは作りやすい。
日本では行政との話し合いなど、民主的にいかないことが多い。
文化的な違いがある。
アメリカは移民の国。隣の人と意見が違っても良い。
「よい喧嘩をして、一緒に暮らして、一緒にやっていく」スタンス。
・吉田さん
日本の行政は小さい生産者を作りたがらない。
行政の監視のしやすさが違うから。
新しく始めるのはハードルが高いと言える。
それに対して大手企業は高みの見物。
大手企業とはスタンスも大きく違う。
重要視しているのは「どれだけコストを下げるか」ということ。
現場でどれだけ聞いても「美味しいチーズを作る」話は出てこない。
大手は海外の原料と日本の原料をまぜてチーズを作るが、
海外の原料に、何をどれだけ混ぜたら「いつものチーズ」になるか、
その分析力を高めることを追求している。
我々小規模生産者は、やってることが全然違う。
身近な原料で、身近な人が美味しいと思うものを追求して作っている。
大手の人とは噛み合ったこともないし、話をしたいとも思わない(笑)
・山田さん
自分の所で無殺菌乳を使ったナチュラルチーズ造りを始めたとき、
保健所の人とは何度も何度も話し合った。
保健所は「牛乳は必ず殺菌するように」と指導することになっている。
でも調べてみたら、殺菌しなければならない法律はない。
「なぜやりたいか」という話から始めて、
発酵食品は文化であることを伝えていった。
日本でいえば漬物みたいなもの。
「漬物を作るときに、白菜を殺菌しますか?」と(笑)
結局、保健所も納得してくれて、
管理が比較的容易なハードタイプのチーズに行き着いた。
・吉田さん
うちでも直培養の乳酸菌があるが、
何も入れなくても発酵してチーズになってくれる。
イランなど原産地でもそう。
健康に対するリスクはゼロではないが、
行政は「リスクをゼロにする」ことのみを目的にしている。
さらには、条例でより厳しく制限しているところもある。
北海道ではオーケーだが、岡山ではダメということがある。
行政は変化を嫌うから。
・佐々木さん
ワインでも、亜硫酸無添加などが近い。
大量生産して、輸送経路が分からないヨーロッパでは、
当然、保存料として亜硫酸が必須になってくる。
しかしうちの場合は国内販売で、輸送距離が短い。
さらに日本は冷蔵技術が高く、安心できる。
そこを一緒にするのはちょっと。
・ブルースさん
野生酵母を利用することもそう。
乾燥酵母を使わないというと、
保健所からは「質が落ちる」と言われた。
ヨーロッパのトップワイナリーの例を挙げて反論したら、
次は「食品衛生上、問題がある」と。
人間は8000年前からワインを造っている。
ワインという液体のアルコールに満ちた環境で、
どんな衛生上問題がある菌が生きていけるのか?
最終的には許可が取れたが、
「他の人には勧めないでください」と言われた(笑)」
もちろん、誰でも簡単にできるわけではない。
「何も入れないという技術」がある。
それぞれのコツがあるし、
リスクを下げていく知識の積み重ねなしにはできない。
-新しい産地形成への課題は?
・ブルースさん
同じような考えで作っていても、造りには違いがある。
それを学んで蓄積することは大切。
日本では会社を渡り歩くのはダメだという文化があるが、
とてももったいない
・吉田さん
自分たちの仕事は、牛を飼って、草を育てて、乳を絞って、
ほんの少し手を加えて、熟成庫で寝かせるだけ。
8割は原料、チーズ作りは2割。
正直に言って、誰でも作れるもの。
牛がいて、銅鍋と薪があれば、誰もが作れる。
皆んなが作って、良いものが残って、
それが産業になっていくのだと思う。
ワインもそうではないか。
日露戦争後、酒税が導入されて
誰もが酒を作れる訳ではなくなった。
それは産地形成への大きな足かせ。
・山田さん
チーズにせよワインにせよ、
海外から来たものはまず技術論が入ってくる。
でもそれはヨーロッパの環境があって初めて、意味を持つレシピ。
日本でゼロの環境で何が作れるか。
常温でもチーズは大丈夫では?
などそういうところから作り上げていない。
ヨーロッパのチーズと比較する必要があるのか。
美味しいカビとそうでないカビがある。
そういうところから知らない造り手も多いから、
借り物ではなく、自分の手で始めていくことが大事では。
・佐々木さん
ワインも醸造はフランスの知識が使えることが多いが、
葡萄の栽培に関しては、使えないことが多い。
畑ベースの造りが増えれば、
日本らしさにつながるのではないか
-最後に、新しい産地形成に向けて、あるべき姿とは
・ブルースさん
土から考えて、質から考えることが大事。
その土地の良さを活かしていくこと。
向いているもの、環境に無理のないものを大事に。
出来ない土地ならこだわらないこと。
お客さんに美味しいものを作ることを第一にしていく。
・伊勢さん
自分はユーチューブでチーズ作りも公開している。
ブルーチーズは自分が開発したものではない。
できる範囲では技術も知識もどんどん公開して、
全体のレベルが上がっていくと嬉しい
・山田さん
チーズの味を形成しているのは、
その土地で山羊が何を食べているかということ。
その土地の植生の香りが出てくる。
その土地を知ること、再評価すること。
気を付けるべきことはたくさんある。
知りたい人にはどんどん伝えていきたい。
たくさんの人がやることは良いこと。
・佐々木さん
ワイナリー同士でイベントも良いが
他の農産物の人たちと組んで
同じ哲学をもつ人たちで連携をしていきたい。
問題点は意外に共通一緒に突破していきたい。
・吉田さん
長田弘という詩人が、
「思想とは暮らしのわざである」と書いている。
暮らしのわざを続ける先に産地ができる。
造り続けていかなければならない。
その努力を続けていかなければ、
産地なんて絵空事になる。
息子にも「源流を知るように」と伝えている。
-ありがとうございました。
*最後に、引用された長田弘さんの詩を載せておきます。
以下、長田弘さんの著書「食卓一期一会」より引用。
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「イワシについて」
きれいな切り身というわけにはゆかない。
いつでも弱し賤しとあだ名されてきた。
出世魚じゃない見かけもよくない。
赤イワシといったら切れない刀のことだ。
つまりマグロ カツオ サバ ブリのエサだ。
海が荒れなきゃ膳にはのせない。
風雅の人にはついぞ好かれなかった。
いつもおもいだすのは一つの言葉。
おかしなことに、思想という言葉。
思想というとおおげさなようだけれども
ぼくは思想は暮らしのわざだとおもう。
イワシはおおげさな魚じゃないけれども、
日々にイワシの食べかたをつくってきたのは
どうしてどうしてたいした思想だ。
つみれ塩焼き、タタミイワシ無名の傑作。
それから、丸干し目刺し頬どおし。
食えない頭だって信心の足しになるんだ。
おいしいもの、すぐれたものとは何だろう。
思想とはわれらの平凡さをすぐれて活用すること。
きみはきみのイワシを、
きみの思想をきちんと食べて暮しているか?
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