北海道ワインアカデミーでの、植原葡萄研究所での講義をもとに。
旧ブログからの引っ越し記事です。
・ブドウを取り巻く状況
平成に入って以来、ブドウを取り巻く景気は悪化し続けてきた。
消費量はどんどん減り、それに応じて生産量も減り続けた。
栽培面積でいうと、30年で約3万haが約1.5万haへと半減した。
どれに伴って苗木業者も減少を続け、苗木生産も激減した。
それがここ数年、ワイン用の苗木の注文が殺到している。
ワイン人気に加え、法改正が行われ、
「日本ワイン」を名乗るためには日本でのブドウ栽培が必須になった。
しかし前述のとおり、葡萄栽培農家は半減している。
結果、大手メーカーが自社畑での生産に切り替えているからだろう。
今回の当アカデミーでも、北海道だけで20数名が集まっている。
ワインづくり、葡萄づくりへの関心の高さを感じる。
・ブドウのルーツ
「ノアの箱舟」伝説があるとおり、
カスピ海や黒海の周辺、
ここが氷河期にブドウが唯一生き残った場所。
それが間氷期になり、温暖化して周囲に広がっていった。
ルーツは大きく3系統。
アメリカ原生種(ラブラスカなど)と、
先のカスピ海沿岸原生種で、
西方に向けて広がったユーラシア種(ヴィニフェラなど)、
東方に向けて広がった東アジア種(ヤマブドウなど)。
原生地より西方に向けて伝播した西部系(南欧系)は、
ローマ帝国によりヨーロッパ中に広がり、
プロテスタントによりアメリカへ渡った。
また東部系(中央アジア系)はシルクロードを渡り、
日本まで来ている。
西部系はワインを重要視するキリスト教文化によって、
ワインに適した小粒系の品種が選抜され、
逆に東部系は禁酒を旨とするイスラム教文化によって、
生食用に適した大粒・皮ごと食べられる品種が選抜された。
東部系は中国、日本にまで到達している。
中国の新疆ウイグル自治区・トルファン市を訪問したことがある。
ここはまさに葡萄の天国だった。
「100年に1度しか雨が降らない」と語られるほどの乾燥少雨。
標高はマイナス200m、水がなくとにかく乾燥している。
北に天山山脈があり、そこからの雪どけ水が、
地下水脈として流れている。
その水を利用していることから、虫害や病害が無い。
きゅうりのような地這いブドウもある。
それでも病気にならない。
日本にも遣唐使の時代に日本に流入、
鎌倉時代には甲州種が育成されていたことがわかっている。
・ブドウの歴史
16世紀、大航海時代にヨーロッパ人がアメリカに到達。
そこでラブラスカ種が発見された。
五大湖沿岸の寒く、雨が多い地域が原生地。
これがデラウェア、ポートランド、ナイアガラ、
スチューベンなどで知られる、ラブラスカ種。
日本においては、明治政府によって、
日本の気候にはヨーロッパ系は合わず、
アメリカ系がマッチしていると結論付けられた。
結果として、米欧交雑種も生み出されることになった。
また近年、日本の独自品種として甲州種が世界的に認められた。
ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラが75%、
東アジア系のトゲブドウ種25%入った交雑種であることが証明された。
ヨーロッパ系は南半球にも広まった。
南アフリカ共和国でのヨーロッパ系品種の成功もあるし、
オーストラリア南部のバースやシドニー、
ニュージーランドも最近の品質向上が目覚ましい。
南米大陸でもチリやアルゼンチン、ブラジル南部が伸びている。
特にチリはフランスを超えたという人もいるほど。
・フィロキセラ抵抗性について
1860年代、フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)が、
アメリカからヨーロッパへと流入した。
葡萄の根に寄生するこの虫に対して、
ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラは抵抗性がない。
20段階の抵抗性を表す指数において、
「抵抗性レベルは0」と診断されるほど、まったく抵抗性がない。
そのため、多くの場合、この虫に寄生されると枯死する。
フィロキセラは成虫になると羽が生え、飛んで広がる。
そのため、あっという間にヨーロッパのブドウ産地全体に広がり、
以降、40年間ヨーロッパはブドウ絶滅の危機に苦しみ続けることになった。
懸賞金までかけた必死の打開策研究の結果、
フィロキセラがもともと生息していたアメリカでは、
フィロキセラとブドウの樹が共存していることが注目され、
中でもフィロキセラへの抵抗性が高いものを選抜し、
それを台木品種として接ぎ木する方法が開発された。
テレキH、5BB、5C、8Bといった台木品種群がそれである。
これによって、ようやく1900年代になって危機を脱した。
一方で、この接ぎ木によって土壌適応性が広がっていることも判明した。
耐湿性の高い3306や耐寒性の高い3309など、
様々な土地にブドウを植えることが可能となった。
日本でもフィロキセラの被害はあった。
北海道の小樽街道沿いにブドウを植えたが、
全滅してしまったという記録がある。
フィロキセラと病気のためと考えられている。
明治末期から大正期にかけて、
日本にも接ぎ木の技術が入ってきて、
ヨーロッパ系のブドウ品種も栽培可能になった。
台木品種の根は本当に硬い。
鋼のような硬さといっても良い。
フィロキセラが入ってこれないため、被害が出ない。
ヨーロッパ系品種はラーメンの麺のように柔らかい。
根の特性は全く違うといえる。
アメリカでもフィロキセラの悲劇は起こった。
ヨーロッパの悲劇という歴史から学べたはずなのに、
油断が生んだ結果といえる。
アメリカで台木品種のルペストリスと、
ヨーロッパ系品種のアラモンを掛け合わせた、
Axrという台木品種が生み出された。
在来品種よりも発根が良く、活着率が良いという理由で、
カリフォルニア大学が導入を勧めた。
しかし片親がヨーロッパ系ということで、
フィロキセラに対する抵抗性が万全ではなかった。
ヨーロッパの研究機関からは、
その脆弱性が指摘され、全面導入を危惧する提言があったが、
カリフォルニア大学はそれを無視して導入を推し進めた。
さらにフィロキセラのBタイプと呼ばれる、
従来のフィロキセラよりも強靭なタイプのまん延によって、
アメリカでも大きな被害が出ることになった。
それ以来、台木用の品種は、
両方の親品種ともに台木専用品種
(つまり台木品種と台木品種の交配)のみとなった。
・現在の状況
生食用ではシャインマスカットの人気が目立つ。
九州から岩手まで栽培が可能な土壌適応性と、
種なしで皮まで食べられること、
そして特別な施設が不要で路地でも育つことが要因。
「儲かってるでしょ?」とよく聞かれるが、
他の生食用の苗木が売れず、
シャインマスカットに置き換わっているというだけ。
販売量全体で見ると、ワイン用が増え続け、
生食用を追い越すようになってきた。
国別でみると、特に注目すべきは中国。
生食用も含めた葡萄の生産量は世界一になっている。
中国に誕生しているワイナリーは資本力を背景に、
大規模化している傾向がある。
そのうち海外への輸出に乗り出してくるのではないか。
先に述べたウイグルのトルファンでも、
素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨンが栽培されている。
ブラインドでテイスティングしたが、
ボルドーのカベルネソーヴィニヨンと間違いそうなくらいだった。
中国は可能性のある国だといえる。
土地もあるし、人も多い。
ただ、ワイン文化がまだない。
そこがどのように醸成されるかによって、
中国が台頭してくる時期が変わってきそう。
当然、日本も注目の産地だ。
ここ山梨でも甲州種に注目が集まっている。
昔は甲州でできたワインなんてダメだと思っていた。
最近は醸造技術の発達で、
「飲めるようになってきたな」という印象。
透明感のあるワインが生み出されてきている。
また、フランスの白にみられるような、
ふくよかな香りに決定的にかけていると思っていたが、
研究によってソーヴィニヨン・ブランと同じ
香りの前駆体が発見されている。
それを引き出していくことが重要だろう。
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