ワイン読本~ワインづくりの四季~

麻井宇介氏の著書を読みなおし。

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データ

発行者:醸造産業新聞社
発行年:1992年刊行→2015年再出版
著者:麻井宇介

内容

映画「ウスケボーイズ」のテーマでもある、
麻井宇介氏の著書。
何度目かの読み返しになるが、
その都度、気づきがあって面白い。

文学者のような表現があり、
学者のような分析があり、
そして農家のような観察がある。
そういう意味で稀有な文章と言える。
もちろん底流に狂おしいまでのワインへの愛情がある。

今の自分にとって興味惹かれた部分をまとめておく。
以下、「 」内は本書から引用

登熟について

p13
「養分はどこに貯蔵されるのか。芽をつけた枝そのものが固くしっかりと熟していくのである。それを「登熟」という。折り曲げて、もろく、うつろな枝であれば、そのブドウ樹は登熟不良なのだ。」

やや文学的な定義が面白い。

産地形成について

P22
「世界的な産地について、共通している条件を列挙してみよう。
1、醸造専用ブドウが集約的に栽培されている景観を有すること。
2、産地の中に個性を持ったワイナリーが数多く存在していること。
3、世界のトップレベルのワインが作られていること。

以上の条件が満たされたとき、初めて世界的にも認知された産地となるのである。」

北海道は今まさに産地化の途上。
山梨での数十年前の分析が、今も使えるのがスゴイ。

葉面積について

p55

「果実に糖分を蓄えるための炭酸同化に必要な葉面の広さは1房について15枚から20枚もあれば良いのだそうだ。1枝に2房。いたずらに葉を繁らせることはない。垣根式栽培の夏季剪定は新梢の徒長で失われるエネルギーに歯止めをかけ、繁茂した葉の間に停滞しがちな湿潤な空気を排除して、これから始まるベレーゾンを迎えるのが目的である。」

ウイルスに関して

ウイルスに関する記述もいくつか。

p88

「ブドウが紅葉するのはウイルスに感染しているからだといわれ出したのは、ここ15年ほどのことである。朱に黒紫をかけたほどに見える紅葉の極まった甲州ブドウの畑は、晩秋から初冬にかわる勝沼の風物として、凄絶ですらある。観光遊覧ブドウ園の高く吊り上げた棚に、その頃までいきいきと見栄えよく残っているブドウを、いざ収穫してみると糖度はたった13パーセントしかない。このいわゆる『味なしブドウ』の続出がウイルス騒ぎの発端であった。」

「いまは茎頂点培養などの方法でウイルス・フリーの苗木を比較的容易に大量に生産できるようになった。味なしブドウはウイルスの複合感染によって発生することも解明された。騒動の初期、諸悪の根源はウイルスにあるかのような短絡した情報が走ったため、紅葉するブドウはすべて駄目なのだという誤解もあったようだ。確かにウイルス・フリーのブドウは紅葉しない。しかし、食味の良いブドウ、味わい深いワインが得られるならば、ウイルス・フリーでなければならない理由はどこにもないはずだ。」

この後、ウイルス・フリーは糖度も上がり安いが減酸も進みやすい、という内容に続く。

苗木について

p171

「新植の苗木は、これで育つのかしらと、見る人を心配させるほどの成長の悪さであった。いや、これでいいんです。徒長させないようにして、充実した主幹をこしらえることが大切なんです。伸び悩んで、ひねこびた姿のブドウの苗木を前に、そんな説明を何度繰り返したことだろう。」

クローンについて

p206

「だが、目的のいささか違うその初生の果実でも、クローンの素性は歴然と現れる。それは樹齢を重ねることによって到達する充実とは違って、双葉より芳しい栴檀の譬のごとく、そのクローンに固有のポテンシャルだ。」

p211

「ことほど左様に、ブドウは同じ名前で呼ばれていても、時とともに性状の均質性を厳密には保てなくなっている。系統選抜はそうした違いをはっきり固定し、有益な栽培種として利用できるようにすることである。これがブドウ栽培の実用面で呼ばれているクローンだ。クローンは、だから同じ品種にいくつもあることになる。

アメリカをはじめワイン生産の新興国では、いまや、いかなる品種を栽培するのか、の問題に結論をつけ、いかなるクローンを選ぶべきか、に関心はうつりつつある。そして、これだけは付随するテーマである台木の選択とともに、ブドウ栽培の現場で個別に解答を出さなければならない。後発のワイン産地が伝統ある銘醸地に伍していくための、これが世界共通のシナリオである。日本でワインを作るわれわれもまた例外ではない。」

もくじ

1 萌芽、ブドウの春
2 開花、あるとき つつましやかに
3 ぶどうの丘、ワイン産地形成の夢
4 食べるブドウとワイン用のブドウ
5 秋、ぶどう祭り
6 甲州ブドウのルーツについて
7 「グラスにキッス」
8 「勝沼」ワインの品質審査会
9 雪の日に思い出すこと
10 剪定、ブドウ樹との対話
11 晩霜のおそろしさ
12 ワインのつくり手と飲み手の接点
13 再び春。しかし、進む高齢化と後継者難
14 新梢誘引、みなぎる生命力
15 ブドウづくりの量と質
16 本場ヨーロッパとの気候の違い
17 適地、適作、適品種
18 ワイナリーからのイニシアティヴ
19 秋の終わり、ワインの眠り

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