いくつかの資料(記事末に付記)をもとに、
ブドウに被害を与えるものをまとめてみました。
防除に関しても記事をまとめたいところ。
最近では生物防除にも注目が集まってます。
生物防除の利点は下記。
①自然界に存在する微生物を利用するため、
環境負荷が小さい。
②宿主特異性が高く、標的病原菌が明確であり、
多重散布が防げる。
(例:バクテリオシンによる抗菌活性)
これもまとめたい。
ともあれ、以下が一覧です。
●ブドウの病気
①つる割れ細菌病(Bacterial blight)
・病原:細菌(Xylophilus ampelinus)
・発病部位:葉、新梢、果穂、果実
・発病時期:多雨が続いたとき
・発病しやすい条件:多雨・多湿
・発病の様子:
葉に葉脈で囲まれた淡黄色の小斑点が現れ、
やがてハローを伴う褐色の病斑となる。
多数の病斑が融合すると枯れ上がる。
新梢では数mm~5cm程度の黒褐色の条斑が発生し、
やがて表皮が割れてつる割れ症状となる場合や、
褐色のかいよう症状となる。
花では花弁が黒変枯死。
果実(ケルナー)では黒褐色で円形の
かいよう症状が現れ、裂果する場合も見られる。
・対策:
開花期前後の散布により、花穂の腐敗率を低減。
翌年の越冬芽における保菌割合も低減される。
薬剤は以下。
塩基性硫酸銅水和剤(銅32%)800倍
(炭酸水素カルシウム水和剤100倍加用)
1樹あたり0.6~1.5リットル(120~300リットル/10a)
3~4回、10日間隔で散布。
・詳細
2009年に北海道の醸造用ブドウで初めて発生、
2014年には秋田県の生食ブドウでも発生が確認された。
つる割れ病(病原はカビ:Phomopsis viticola)と混同されやすい。
ヨーロッパ系ブドウ、およびその交雑種のみに病原性。
剪定などにより生じる傷口から感染、風雨を伴うと伝染しやすい。
本病が古くから発生している地中海沿岸地域では、
冷涼で降雨の多い条件が必要。
露地で高湿度が維持される多雨条件となった場合には
発生に注意する。
病原細菌は欧州から道内に伝播したと考えられるが、
2009年の発生時はツヴァイゲルトやケルナーなど
ドイツ原産の樹で確認された。
本来は温暖地域(地中海沿岸、南欧)で発生する病害で、
北海道への伝播経路も発生理由も不明(2018年現在)。
道内主要品種は感受性が高い。
ツヴァイ、ミュラー・トゥルガウ、セイベル5279、
セイベル13053、ケルナーなどは注意。
②ブドウ根頭がんしゅ病(Crown gall)
農研機構の生物防除関連の発表はこちら→(リンク)
・病原:細菌(Rhizobium vitis ,R.radiobacter)
・発病部位:幹
・発病時期:7月上旬~9月上旬
・発病しやすい条件:
凍害を受けた樹は発病しやすい。
発病した母樹から採取した穂木は感染している。
・発病の様子:
主幹に表面がカリフラワー状のこぶを形成する。
他の樹種では、こぶは地際部付近のみに形成するが、
ぶどうの場合は主幹の至るところに形成する。
発病後は樹勢が低下し、やがて枯死する。
・対策:
無病苗を栽植する。
樹体に傷をつけないように管理する
(組織の傷口から感染するため)。
デラウェアはこの病気に強く、ほとんど発病しない。
非病原性ウイルス(VAR03-1)による生物防除も登場。
罹患したが発病しなかった株を授与すると、
こぶが小さくなるというもの。
トマトやバラなどよりも実験結果は良く、
ブドウでは91.8%の成果があった。
・詳細
北海道での1999年の研究によると、
余市で6園地758本中153本の発病。発病樹率は20.2%。
全体でも17園地4403本中653本の発病。率は14.8%。
という結果が出ている。
③灰色カビ病(Botrytis bunch rot)
・病原:カビ(Botrytis cinerea)
・発病部位:花、果実
・発病時期:開花期、成熟期
・発病しやすい条件:
多湿条件で発生しやすいため、排水不良園で発生が多い。
開花期前後が多雨のとき花穂で、
夏から秋にかけて多雨のとき果実の発病が増加する。
・発病の様子:
主に開花期前後の花穂と成熟期の果実に発生する。
花穂では花、果梗、穂軸が褐色となって腐敗する。
成熟期の果実では裂果した果実を中心に褐色に腐敗し、
灰色のカビを生じる。
・対策:
園地の排水を改善し、過繁茂は避けて通風をよくする。
開花期から予防的に薬剤を散布する。
④晩腐病(おそぐされ/ばんぷ)(Ripe rot)
・病原:かび(Colletotrichum acutatum、不完全菌類・
Glomerella cingulate、子のう菌類)
・発病部位:葉、果実
・発病時期:幼果期~成熟期
・発病しやすい条件:
多雨条件で多発する。
春先の降雨で枝が濡れ、
平均気温が15度ぐらいになると胞子を形成。
雨滴によって伝染する。
・発病の様子:
葉に褐色の小型病斑を多数形成し、
やがて病斑は融合し大型化する。
幼果に発病すると小さい円形、褐色の病斑を形成、
病斑部はへこむが、果粒軟化期までは拡大しない。
その後、果粒の糖が増加し、酸が減少してくると、
腐敗型の病斑を形成する。
病斑上にはサーモンピンクのネバネバした胞子塊。
病斑が拡大すると果皮にしわがより、
やがてミイラ果となる。
病斑は不明瞭で他病害との識別が困難な場合が多い。
・対策:
芽出し前(休眠期)と生育期に薬剤を散布する。
伝染源となる結果母枝や果梗の切り残し、
巻きひげなどを取り除く。
果房に雨滴を当てない工夫(カサかけなど)を行う。
・詳細
本州のみの発病と思われていたが、
近年、北海道でも発症が確認されている。
(2010年奥尻でも)
病原菌は結果母枝や果梗の切り残し、
巻きひげなどの組織内で菌糸の状態で越冬する。
⑤黒とう病(Anthracnose Bird’s eye rot)
・病原:かび(elsinoe ampelina)
・発病部位:葉、果実、新梢、巻きひげ
・発病時期:7月上旬~
・発病しやすい条件:
生育前半に雨が多い年は発生が多く、特に6月中旬~7月上旬に
冷たい雨が多いと多発する。
欧州系の品種で発生が多い。
・発病の様子:
葉では、葉脈上に直径2~5mmの病斑を生じ、
病斑は古くなると穴が開きやすくなる。
病斑が多くなると葉がゆがんだり巻き込んだりする。
果実では、初め黒褐色円形の小斑点を生じ、
のちに拡大して中央部が灰白色、
周辺部が鮮紅色~紫黒色の陥没した病斑になる。
・対策
発生すると薬剤で止まらないので、予防する。
萌芽直後~7月中旬まで薬剤散布を行う。
窒素肥料の過多による軟弱徒長を避ける。
⑥べと病(Downy mildew)
・病原:かび(Plasmopara viticola、べん毛菌類)
・発病部位:葉、果実(果梗を含む)
・発病時期:開花前~果実成熟期
・発病しやすい条件:
発病適温は22~25度で、7月、8月が多雨であるとまん延しやすい。
曇雨天が続く年には大発生する。
欧州系品種はアメリカ系品種に比べ弱いため発病が多くなる。
・発病の様子:
葉が主体、まれに果実や新梢、巻きひげにも発生する。
葉では、初め不明瞭な病斑が現れ、後に葉脈に囲まれた
角形病斑となる。葉裏には純白色のカビが生じ、
激発すると葉が黄化して落葉する。
ウドンコ病に似ているが、毛足が長いのが特徴。
花穂や幼果に発病すると壊滅的な被害となる。
・対策:
薬剤(ボルドー液)による防除を行う。
開花7日前~落花10日後が発生しやすい時期。
生育期の防除開始時期が極めて重要。
展葉5~6枚で予防散布を行う。
この予防が遅れると、花穂や幼果が被害を受ける。
本州だけでなく、北海道でも薬剤耐性菌が登場。
薬のローテーションに気を使う。
・詳細
病原菌は落葉の組織内で卵胞子の状態で越冬。
卵胞子の寿命は長く、土中でも2年間は生存可能。
落葉や剪定枝は園外に持ち出し、
処分して菌密度を下げることが重要。
発症してからの防除は、
2016年の実験によると、
菌接種から銅剤散布は1時間以内なら効果100%。
6時間後から急速に効果が下がり、
12時間後には効果なしという結果になっている。
発症後より予防が重要と言われる根拠。
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*ボルドー液によるベト病の防除
・ボルドー液発明の経緯
1882年10月末に、M.A.ミラルデにより発見。
ベト病の発生が少ない葡萄葉の表面に、
粉末状の青白い薄膜が見られた。
泥棒対策に生石灰と混ぜた硫酸銅を塗る習慣があった。
ボルドー液の処方により胞子の発芽抑制が証明された。
・ミラルデの推奨する処方
水1リットルに市販の硫酸銅8kgを溶かす。
水30リットルに15kgの石灰石を入れて
石灰の乳剤を作り、硫酸銅溶液を混ぜる。
(弱溶解性の水酸化銅から、緩慢に銅イオンが溶出)
ペーストを刷毛で葉の葉面に塗る。
ブドウの実にかからないように注意する。
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⑦環紋葉枯病
・病原:かび
・発病部位:葉
・発病時期:8月~収穫期
・発病しやすい条件:
低温・多湿条件で多発する。
生育後半に発生しやすい。
欧州系品種で発病が多い。
・発病の様子:
初めは葉に褐色の斑点を形成する。
多発すると葉全面に病斑を形成し、早期に落葉する。
葉裏面には長さ0.5mmほどの
ぶどうの房状の付着物を多数形成する。
・対策:
前年被害葉は伝染源となるため処分する。
周辺野生植物も伝染源となるため処分する。
●ブドウの害虫
①ツマグロアオカスミカメ
・加害部位:新梢
・加害時期:5月上旬~6月上旬
・多発しやすい条件
高温・多湿が発生に適する。
・被害の様子
年3回発生し、卵態で越冬をする。
ふ化した幼虫は発芽直後の新葉を吸汁する。
その新葉は展葉とともに吸汁痕から不規則に避ける。
成虫の体色は黄緑色で羽の末端は暗色である。
幼虫および成虫のいずれも植物の柔らかい組織を
好んで吸汁する性質がある。
②チャノキイロアザミウマ
・加害部位:葉、果実
・加害時期:5月~9月
・多発しやすい条件
少雨は増殖に適する。
・被害の様子
果穂、果軸などが吸汁害を受ける。
果実では褐色の不整形斑が生じるため、
商品価値が損なわれる。
③ブドウスカシクロバ
④マメコガネ
⑤スズメバチ
近年多くなってきた印象がある。
暑い年ほど出てくる。
圃場周辺から入ってくる。
春先(5月)の女王バチが来る時期に、
畑の外側にハチトラップを仕掛けて取ってしまう。
2年前に大被害を受けて、翌年に大量のトラップを仕掛けた。
それ以降、大きな被害は出ていない。
⑥ブドウサビダニ
顕微鏡でしか見ることができないくらいの大きさ。
葉に茶色のフンをするので、それで判断。
最近登場した。
房がミイラ化することもある。
⑦ブドウトリバ
近年、増加傾向。実が茶色に変色する。
灰カビも誘発するので厄介。
⑧カイガラムシ
⑨スズメガ
⑩ツヤコガ
●ブドウの害獣
①タヌキ
罠に1回入ったら、何度でも入ってくる。
群れで行動。一網打尽に。
②アライグマ
タヌキに似るが、顔にたて線模様がある。
しっぽもシマシマなので、それで判断。
③シカ
春先に芽をかじられるので注意する。
④ウサギ
害獣の中で一番厄介。
樹皮をやられるので、病気にも弱くなる。
かじられたところから根頭がんしゅが発症も。
凍害にも弱くなる。
臆病な動物なので、ネットをかぶせるなど、
普段と違う様子があると近寄ってこない。
参考:
・日本植物病理学会(リンク)
・「新・北海道の病害虫 ハンドブック全書」・「よくわかるブドウ栽培」・2018年北海道ワインアカデミー講義
「ふらのワインにおける栽培と醸造」
(北海道大学 近藤則夫教授)
・2018年北海道ワインアカデミー講義
「病害虫について」
(ふらのワイン 高橋克幸 製造課長)
・病害虫・雑草の情報基地(リンク)
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コメント
生理障害に関する記述がみあたりませんが、どんな症状や原因があるのでしょうか。
ほんとだ!
タイトルに偽りありですね…。
追記してアップしなおします!