今日は「葡萄に横一列に枝を伸ばさせるのはなんで?」について。
ワイン用の葡萄畑を見たことが無い方もいらっしゃると思うので、
写真もつけておきました。
こんな感じで、ワイン用の葡萄は1列に横に並んでいます。
(生食用の葡萄は、上に伸びて棚に這わせて、下に実を付けてます。
日本で葡萄と言ったら、この棚仕立ての方がポピュラーかも。)
で、枝もこんな感じで横向きに、1列に並んで1本だけ伸びています。
(そのメインの枝から、何本も枝が上に伸びて実を付けてるわけですね)
で、「これは、なんで?」とのことです。
こういう、シンプルな(シンプルに見える)質問ほど、
正確に答えるのは苦労する。
(子供たちからの質問もしかり。
本質を突いた質問は、シンプルな顔をしているから。)
①葡萄の樹を1列に並べるのはなぜか。
ワインの本場、フランスにおいても、最初から1列ではなかったようです。
以下、「アンリ・ジャイエのブドウ畑」より引用。
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ブルゴーニュのブドウ畑に馬が導入されたのは、
それほど昔のことではない。
馬を使えるようになったのは、フィロキセラ被害の後で、
それ以前はブドウは密に植えられ、
道具を抱えたヴィニュロン(引用者注:ブドウを育てる農民)ひとりしか、
畑の中を通れなかった。
軍の地図を見ると、ブドウ畑は馬で通れない場所として記されている。
だから馬が入ったのは、ブドウが列をなして植えられるようになってから、
つまり1890年以降、今ではなじみの品種が植え直されてからだ。
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上記の記述を根拠にすると、
フランスにおいても、
葡萄が1列に植えられるようになって、まだ約130年ほど。
ワインの歴史は数千年なので、本当に最近の流行だと言える。
しかも、その理由は、上記の記述から推測すると、
フィロキセラという虫の害で、ヨーロッパ中の葡萄を植え直すことになり、
それなら「馬(とか機械とか)が入れるように、1列にしよう」という、
人間側の都合で1列になったと読める。
(少なくとも日照とか風通しとかの理由には触れられていない。
それまで数千年は、密植栽培だったわけだし。)
②葡萄の枝を横向き1列に仕立てるのはなぜか?
では次に、1列になったブドウの樹の枝を、
横向き1本にするのはなぜなのか。
今、世界で最もポピュラーなのが、「シングル(単式)・ギュイヨ」方式。
こんな感じに剪定して(散髪して)、
枝をどちらか横一方に1本だけ伸ばすわけです。
葡萄は自然状態だと、上に向かって一直線に伸びます。
それをわざわざ、横に曲げてしまうのはなぜか。
これまた、「アンリ・ジャイエのブドウ畑」より引用。
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昔から、湾曲した果樹の枝は、
樹勢を抑え、結実を増やすことが知られていた。
枝を横に倒すことで、樹液が流れにくくなるからだ。
単式ギュイヨ方式では、短梢を長梢の下に残す。
(長梢を切ってしまうので)翌年はそれが一番上になる。
こうして樹の背丈が高くならず、果実の質が良くなる。
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つまり、横に曲げることで、植物に環境ストレスをかけるということ。
強い乾燥などもそうだけど、環境ストレスがかかると、
植物はより適応するために次世代を残そうとする。
自分の枝を伸ばして栄養を獲得することよりも、
実を多く付けて、たくさんの種を生み出すことに力を注ぐわけだ。
もちろん、だからといって、
必ず横一列に伸ばさなければならないわけではない。
「新・ワインの科学」という本には、
そのほかの様々な仕立て方が紹介されている。
以下、引用。
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ブドウの仕立て方と樹冠管理については、
あらゆる状況に当てはまる万能の解決策はない。
その土地の条件に合わせて変えていく必要がある。
基本原理は同じでも、
土壌の肥沃度、気候、水供給、ブドウ品種、作業者の技術と人手の有無、
といった条件を考慮に入れて、最適な管理手法を選ぶことが大切だ。
(中略)
樹冠管理の目的は、葉と実に最適な量の日光を当てるとともに、
病気のリスクを減らし、収量に対して品質をできるだけ高めることにある。
樹冠の密度を減らすと、ふたつの面で病気を防ぐのに役立つ。
ひとつは、薬剤がまんべんなくかかること。
もうひとつは、空気の循環がよくなり、
乾燥に要する時間が少なくて済むことだ。
樹冠管理のためのさまざまな方策は、
ブドウをバランスの取れた状態にするために行われるものである。
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この本で紹介されている仕立て方で、横一列にならないものは…
・ゴブレ方式…支柱を1本ブドウの横に立て、巻き付かせていく。
・半棚仕立て…柱でツルを吊るすように仕立てる。
・リラ式…V字型になるように樹冠を分割する。
などがある。
まとめると…
日光を多く当て、風通しを良くすることが横一列の主たる目的。
加えて、薬剤の散布や機械の導入など、
人間にとっても都合が良いことも目的と言えそうです。
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